総合診療医 キャリアの軌跡

総合診療医がどこで何をしているか、どのようなキャリアを歩んできたかを一覧で示すことで、学生や医師のキャリアを考える助けになることを目指しています。変更や削除の希望、ご意見・ご感想は記事にコメントをお願いします。

58.北海道 男性 医師20年目

出身大学はどこですか?
九州大学


初期研修はどこの病院でしたか。また、初期研修のあと専攻医になるまでの経歴があれば教えてください。
沖縄県立中部病院プライマリケア専攻コース(当時は卒後臨床研修制度が始まる前)
初期研修後に離島診療:沖縄県立北部病院附属伊平屋診療所


所属、または卒業プログラム名を教えてください。卒業と現所属のPGが異なる場合、両方お書きください。現所属PGでトップページに振り分けます。
UPMC Shadyside Family Medicine Residency
Shadyside Family Medicine Residency Program | University of Pittsburgh | University of Pittsburgh
現所属:手稲家庭医療クリニック 院長・指導医


専攻医1年目の研修場所、研修内容(期間・目的など)を教えてください。

UPMC Shadyside(地域の基幹病院・大学病院群の一つ)を中心に、外来施設であるShadyside Family Health Centerでの継続外来。詳細は以下の通り。数字は4週間を1単位、年間13単位に分けた単位数。いわゆる病棟研修が1年目は多く、約9ヶ月が病棟中心の研修。

Introduction to Community/Family Practice 1.0 UPMC Shadyside
Family Practice/Inpatient Adult Medicine Rotation 4.0 UPMC Shadyside
Surgery/Inpatient Rotation 2.0 UPMC Shadyside
CCU/Inpatient Cardiac Intensive Care Units 1.0 UPMC Shadyside
Pulmonary/Inpatient Medicine Rotation 0.5 UPMC Shadyside
ER/Surgery Skills/Ambulatory Emergency Care and Surgical Skills 1.0 UPMC Shadyside
Obstetrics/Inpatient/Outpatient  1.5 UPMC Shadyside
Pediatrics/Inpatient/Outpatient and Community Pediatric Practices 1.0 UPMC Shadyside
Pediatrics/Inpatient  Children's Hospital of Pittsburgh


専攻医2年目の研修場所、研修内容(期間・目的など)を教えてください。

継続外来は週2ー4コマに増える。病棟研修は4ヶ月程度で、循環器なども外来だけの研修。屋根瓦形式なので1年生を指導しながら病棟責任者をする月もあればナイトフロートも始まり自主性が求められた1年。この年に選択研修として日本の家庭医療研修現場を2週間余りで行脚した。小児科の研修は1年目は病棟だが、あとは救急外来ばかり。

Family Practice/Inpatient 2.0 UPMC Shadyside
Pediatrics/Outpatient 1.0 Children's Hospital of Pittsburgh
Obstetrics/Inpatient/Outpatient 1.5 UPMC Shadyside
Cardiology/Inpatient/Outpatient 1.0 UPMC Shadyside
Neurology/Inpatient/Outpatient 1.0 UPMC Shadyside
Orthopaedics/Outpatient 1.0 UPMC Shadyside
Night Float/Inpatient 1.5 UPMC Shadyside
Geriatrics/Inpatient/Nursing Home/Outpatient 1.0 The Heritage Shadyside


専攻医3年目の研修場所、研修内容(期間・目的など)を教えてください。

家庭医療病棟のチーフレジデントとして全体の責任者となり、かつ指導医になるために必要な管理業務も徐々に関わるようになる。外来研修は週4ー6コマ程度に増える。選択研修ではリハビリ、ペインメディスン、日本行脚、スポーツメディスンなどを履修した。3年目の早い段階でフェローシップの採用が決まり、Faculty Developmentフェローとして同じ環境で診療も継続できることとなった。
3年間を通して専攻医から専門医に至る段階が詳細に設定してあり、無理なく独立した専門医になることができた。多くの仲間(1プログラムに1学年10名、3学年で30名の専攻医)がいるので孤立せず学び合うことができた。多様な指導医が数多くいる(研修プログラム所属指導医10名、開業医指導医は20名あまり)ので、様々なロールモデルに出会うことができ、キャリアプランの参考になった。メンターも様々な視点で出会うことができたので、質問や相談する相手に困ることがなかった。

Chief Resident/Family Health Center 2.0 UPMC Shadyside
Family Practice/Supervising Resident 1.0 UPMC Shadyside
Pediatrics/Outpatient/ER 1.0 Children's Hospital of Pittsburgh
Office Practice Management/Outpatient 1.0 UPMC Shadyside
Obstetrics/Inpatient/Outpatient 1.5 UPMC Shadyside
Gynecology 1.0 UPMC Shadyside
Psychiatry Liaison Service/Inpatient/Outpatient 1.0 UPMC Shadyside
Night Float/Inpatient 0.5 UPMC Shadyside


それ以降現在までの勤務場所、勤務内容を教えてください。指導医の先生はこれまでのキャリアの変遷について教えてください。
ピッツバーグ大学家庭医療科でFaculty Developmentフェローとして2年間。フェローと並行してピッツバーグ大学公衆衛生大学院にて公衆衛生修士取得。その後帰国して2008年より手稲渓仁会病院家庭医療科、2009年より手稲家庭医療クリニック院長になり、現在に至る。家庭医療の実践としてのクリニックの立ち上げと運営、家庭医療専門研修プログラムの立ち上げと運営、地域での医師会活動など。


初めて総合診療医に会った、総合診療医のことを知ったのはどんな時でしたか?
医学部学生時代に2回にわたり米国アイオワ大学で見学実習の機会を得た。その際に初めてFamily Medicineという存在を知りました。


家庭医療(総合診療)専門医研修を履修しようと思った理由、総合診療医になろうと思った理由を教えてください。
初期研修はプライマリケア専攻として離島診療を目指して研修。その後離島で「このように地域に密着して自分の住む地域の人々の役に立つ医師として一生やってみたい」と思うようになり、離島で足りないと思った包括的な家庭医療の研修を行うために米国に渡りました。


プログラムや勤務病院選びの際にはどのように情報収集しましたか?
あまり選択肢も情報もなかったので、つないでくださった先輩のつてを頼ってピッツバーグにたどり着きました。他のプログラムでは面接もしていませんし、まったく選択肢もありませんでした。


進路選択で重視したポイントや、プログラムを選択したポイントは何でしたか?
米国で医学を学ぶ、という意味では医学生の時から臨床医になるために最も良い方法と考えていましたので迷いはありませんでした。何よりも教育のリソースとノウハウが日本とは次元が違うと感じています。


専攻医、総合診療医になる前に、心配だったことがあれば教えてください。

米国という医療システムの異なる国で研修すること、英語で生活・研修すること、家族(当時は妊娠中の妻と2歳の息子あり)で環境を大きく変えること。


家庭医療(総合診療)専門医研修を履修してよかったこと、総合診療をやっていてよかったことを教えてください。

研修を行うことで自然と家庭医療の実践が行えるように段階的に専門医になるためのプログラムが用意されていた。
ロールモデルも豊富で、将来自分が目指すべき姿を多くの人の中に見出すことができた。
幅広い診療能力と多職種連携能力で医師だけでなく地域の医療者から頼られる存在になった。


専門医を取るに当たって、あるいは総合診療医として働いていてどのような障壁があります(した)か。また、それをどう乗り越えたか教えてください。

当時は日本国内に専門研修プログラムがなかったので、米国での研修を受けるにあたりUSMLEを受験してECFMG certificateを取る必要があったり、ポジションを得るために面接を受ける必要があったりした。何よりも英語の問題は大きかった。乗り越えられたかどうかはわからないが、米国の多様な文化を受け入れる国全体のあり方に助けられ、レジデンシーを生き延びられたと感じています。大切なのはやはり環境と仲間だと思います。


ワークライフバランスについてのお考えや、何か工夫されていることがあれば教えてください。
率先してライフを楽しむこと


今、力を入れていることや、今後やりたいこと、興味のある分野について教えてください。
日本で良質な家庭医療研修を受けられる環境を整えること。学会として米国の学会のように強力な生涯教育の仕組みを作ること。学会全体として国家レベルで家庭医療のあるべき姿を議論し、医療に対して責任を持った団体にすること。
家庭医療と公衆衛生の親和性は非常に高いので、自分がやったように専門医取得後に公衆衛生修士を学べるルートを確立したいです。


家庭医療(総合診療)を志す学生や医師にメッセージや今後の意気込みなど一言お願いします。
医療の専門分野としての家庭医療はまだまだ医療者側・国民側にも十分な理解が得られているとは思えません。しかしその専門性の面白さは他の分野に比較できるものがないほど個性豊かなものだと感じています。好きな人はとっても好きになる領域です。今はとにかく仲間を増やし、きちんとあるべき姿に向かって足並みをそろえる時期だと思います。これまで自分が研修や診療、専攻医指導そして組織運営で得てきたものを生かして、家庭医療を取り巻く世界のため、国民の健康のために大きな仕事をしていきたいと思っています。