総合診療医 キャリアの軌跡

総合診療医がどこで何をしているか、どのようなキャリアを歩んできたかを一覧で示すことで、学生や医師のキャリアを考える助けになることを目指しています。変更や削除の希望、ご意見・ご感想は記事にコメントをお願いします。

114. 北海道 男性 医師17年目

出身大学はどこですか?
東北大学


初期研修はどこの病院でしたか。また、初期研修のあと専攻医になるまでの経歴があれば教えてください。
勤医協中央病院


所属、または卒業プログラム名を教えてください。卒業と現所属のPGが異なる場合、両方お書きください。現所属PGでトップページに振り分けます。
卒業したのは「北海道勤医協 総合医・家庭医後期研修プログラム」(現在は新専門医制度に合わせて「北海道勤医協総合診療専門研修プログラム」になっています)。現在指導医として登録しているのは「札幌医科大学 総合診療専門研修 プログラム」です。


専攻医1年目の研修場所、研修内容(期間・目的など)を教えてください。
勤医協中央病院の総合診療科で、1年半の間、総合診療病棟、内科・初診外来、救急外来での研修を受けました。当時は新築移転前で救急車受け入れ台数は多くなく、全救急患者を把握し、必要な主訴・疾患の患者を選んで担当できました。


専攻医2年目の研修場所、研修内容(期間・目的など)を教えてください。
道北勤医協一条通病院の内科で、1年間(2年目後半期~3年目前半期)、一般内科病棟と内科継続・初診外来、訪問診療・往診の研修を受けました。内科各科が揃っていない地方都市の中小規模病院でどこまでやれるかを見てみたくて志望。病棟では人工呼吸器管理から認知症ケアまで、在宅も看取りから安定した高齢者まで幅広く経験でき、一人で幅広く継続的に診る面白さを感じました。


専攻医3年目の研修場所、研修内容(期間・目的など)を教えてください。
3年目後半期は勤医協札幌病院の小児科3ヶ月と、東京の生協浮間診療所での外部研修3ヶ月を受けました。
前者は、病棟診療や重症・急変症例は少ないため手技経験は少ないものの、乳幼児健診・予防接種などの予防医療、Commonな疾患・発達のプライマリ・ケア診療を経験でき、また心理社会的な問題を抱えた家族全体を診る経験も豊富にでき、小児~思春期診療や家族志向のプライマリ・ケアの実践ができました。
後者は、それまで深く学ぶ機会が乏しかった「家庭医療学」の理論的基盤の学習と、診療所ベースの家庭医療レジデンシー運営(診療所や地域での専攻医教育や組織管理など)を学びに行き、濃厚な学びを持ち帰ることができました。


それ以降の勤務場所、勤務内容を教えてください。
4年目は、道東勤医協釧路協立病院で1年間、一般内科病棟と内科継続外来を経験しながら、家庭医療研修プログラムの運営と専攻医指導、多職種共同学習や住民参加型地域ケアの実践など「病院で行う家庭医療」の試行を行い、多くの経験を得ることができました。
その後の10年間(卒後7年目~16年目)は、勤医協札幌病院で「病院家庭医」として、臨床実践、研修医・専攻医教育、小病院や地域での研究などに専念しました。


現在の勤務先と、勤務内容について教えてください。
札幌医科大学 総合診療医学講座です。今まで経験の少なかった卒前・医学生教育と、より高度な量的研究の研鑽、そして大学と行政のバックアップを得ながらの僻地医療システムの構築に関わって学び続けています。


初めて総合診療医に会った、総合診療医のことを知ったのはどんな時でしたか?
「総合診療医」という認識は特にありませんでしたが、子供の頃にかかっていた診療所の医師は喘息を抱えた自分も、様々な症状をついでに相談する親もまとめてみてくれていたので、それが「普通の医師」という認識でした。
家庭医や総合医というのは学生時代に聞いたことはありましたが、大学内では純粋な総合医(領域別専門科との併任や専門医からの転向ではない総合医一本の医師)には出会えず。6年生のときの特別講演で僻地医療に従事されていた先生のお話に感銘を受けたことと、総合診療科選択実習で往診専門クリニックを選択し、病院の設備がなくてもなんでもできる医師をみて感動した経験は大きいです。


家庭医療(総合診療)専門医研修を履修しようと思った理由、総合診療医になろうと思った理由を教えてください。
自分の「医師」のイメージに最も近いため、以前から漠然と総合診療医のようなものを目指していたと思います。学生時代の「何でも見れる医師は、広く浅くなってしまうし、専門医からも看護師からも患者からも信頼されない」という刷り込みで、現代では総合診療が成立しないと絶望していました。
そんななか、たまたまマッチング先探しで勤医協中央病院に行き、自分のことを総合医と自称している医師が生き生きと仕事をしており、他職種や他科専門医と笑顔で協働している様子をみて「総合医になってもいいんだ」と思えて決めました。


プログラムや勤務病院選びの際にはどのように情報収集しましたか?
当時はマッチング制度開始2年目だったので、役に立つ情報が少なく大変でした。
大学内には総合診療系の情報は全くなかったため、当時有名だった巨大医療系メーリングリストのCollege-medに流れてくる研修病院情報(メーリス運営者が実際に全国の研修病院の見学に行き、詳細なレポートを流していた)をみて参考にしていました。
あとは自分で病院のホームページなどをみて当たりをつけ、診療科(総合診療のほか、小児科や産婦人科なども)や地域(東北のほか、関東や北海道も)、規模や機能(1000床レベルから診療所まで)、関連医局(東北大関連とそれ以外の大学関連病院、医局派遣のない病院など)をまんべんなくみて自分にしっくり来る条件を検討しました。
いくつかみる中で感覚がつかめてきて、見学先の研修医や指導医からの情報や紹介も得られるようになりました。


進路選択で重視したポイントや、プログラムを選択したポイントは何でしたか?
初期研修先の選択については、「診療経験や医学知識・技術はどこでも必ず学べるので、土台ができる初期研修では好ましい言動・態度・価値観が身につくところがよい」という話を、当時のメーリスか有名指導医の発言で聞き、深く納得したのでそのとおりにしました。
なので、プログラムに記載されているスペックやコンテンツ、待遇などはあまり気にせず、
総合医が虐げられずに楽しそうに仕事をしていて、自分の仕事・診療科に誇りを持っていること」と、「研修医が個性や関心に沿って、好きなことを自主的に元気そうに学んでいる姿がたくさんあること」、「他職種と医師が陰口を言い合っておらず、カンファレンスも建設的な議論が成立していること」を基準に選びました。その選び方は大正解だったと、今でも思います。


専攻医、総合診療医になる前に、心配だったことがあれば教えてください。また、不安がその後どうなったのか教えてください。
後期研修・専門研修先の選択については、当時いた病院には専門研修プログラムがなく、1号生として自分の希望を反映したプログラムを作ってくれるという話になったため特に心配や不安はなかったです。前例が無いことは、当時の総合診療業界では普通と思っていたし、歴史がありすぎて型にはまった研修しかできないことは避けたかったので性に合っていました。
初期研修先と同じ病院を選ぶことで「他にも良い環境があったかもしれない」という不安は持ちそうでした。そこで卒後2年目にいくつかの病院を見学にいき、「誰かが全部お膳立てして作ってくれた研修環境のなかに、自分にとって理想的な環境はない」ことがわかったのはとても良かったです。


家庭医療(総合診療)専門医研修を履修してよかったこと、総合診療をやっていてよかったことを教えてください。
患者診療をしていて、「患者は専門医志向だから、総合医は相手にされない」ということはなかったし、「総合医は専門医から尊重されないので、無力感を感じやすい」ということもなかったです。とても学び甲斐があり、学んだことが患者診療にダイレクトに反映され、重症患者の救命だけでなく、慢性疾患ケアや予防医療でも患者さんの満足度が高まっていくことを日々実感できてとてもやりがいがあります。
また、総合診療は「幅広く学んで地域や病院のニーズに応えること」が推奨されやすい文化のため、次々新しいことを学ぶことが組織にとって好ましいことと評価されるのは、飽きっぽい自分にとってはとてもやりやすかったです。


専門医を取るに当たって、あるいは総合診療医として働いていてどのような障壁があります(した)か。また、それをどう乗り越えたか教えてください。
専門医資格の取得については、一般的な研修プログラムで研修をしていれば難しくはないと思います。ただ、たとえばできたばかりの小規模なプログラムで、指導医も家庭医療の知識に乏しく、忙しくて指導や振り返りの時間がとれず、他職種と一緒にプロジェクトに取り組む機会もないと厳しいとは思いますので、ある程度はプログラム選びは重要と思います。そのあたりは、プログラム紹介ページなどの情報ではなく、そこで研修している専攻医に直接話を聞いたり、レジデントデイ・振り返りの場に参加して雰囲気を体験することで理解できると思います。


ワークライフバランスについてのお考えや、何か工夫されていることがあれば教えてください。
急性期病院では総合診療医は便利な存在のため、気を抜くと業務過多になりやすいと思います。また、総合診療医を目指す医師は、患者の要望や組織のニーズに応えたい性格・信条の人が多い傾向にあり、多忙さに拍車をかけていると思います。
組織が継続的に発展するために、ワークライフバランスについては個々の医師の個別の事情を十分に把握して、個別化した柔軟な対応が取れる必要があります。そのため、定期的な雇用者・上司との面談の機会があり、組織の雇用ルールの柔軟性や定期的な見直しがあると良いと思います。
わかりやすい指標としては、「男性も育児休暇をとっているか」や「指導医も当直明けにはちゃんと帰宅しているか」、「年休取得率や夏休み・年末休暇の取得状況」などを聞いてみると良いと思います。もう少し砕けた聞き方であれば、見学時に研修医や指導医に「休みはどうしてますか?」と聞くと、休みのとり方について幅広く情報が聞けると思います。
もちろん、いろいろ犠牲にしながら研修に集中する時期があっても良いとは思いますが、そういう研修が合う人と合わない人がいると思いますので、自分にとって心地よい研修の密度や仕組みをいろいろ見ながら検討されると良いと思います。


今、力を入れていることや、今後やりたいこと、興味のある分野について教えてください。
すべての医学部卒業生が、家庭医療や総合診療を「臨床医学の確立した一分野」として当たり前に認識し、総合診療医を目指す人がもう少し増えつつ、それ以外の専門医になるひとも総合診療の良さや限界を理解して建設的な協働が成立しやすくなる世界をつくりたい。そのために1ミリくらい貢献できたら言うことなしです。


家庭医療(総合診療)を志す学生や医師にメッセージや今後の意気込みなど一言お願いします。
もし興味を持っているなら、いろいろ調べるだけでなく、ぜひ数か所見学にいって実際に総合診療をしている人の姿を見て、彼らの口から話を聞き、合う・合わない、好き・嫌いを判断してほしいです。
経験症例数や経験手技数など数値化しやすいところではなく、現場の雰囲気や現場の人々の言動にこそ、総合診療の魅力を感じ取るきっかけや、研修プログラムとの相性を判断する場面があると思います。